
「年齢を理由に賃貸住宅の入居を断られた」「親の住み替え先がなかなか見つからない」――高齢者の賃貸入居は、ご本人にとってもご家族にとっても大きな悩みです。一方で、2025年10月に改正住宅セーフティネット法が施行され、見守り付きの「居住サポート住宅」や、高齢者でも利用しやすい「認定家賃債務保証業者」など、高齢者の住まい探しを後押しする新しい仕組みが動き始めています。
この記事では、高齢者が賃貸入居で困る理由を大家さん側の視点から整理したうえで、断られにくい部屋探しのコツ、見守りサービスや家賃保証の活用法、住宅セーフティネット制度の概要、そしてご家族ができるサポートまでを、わかりやすく解説します。
| この記事の要点(30秒でわかるまとめ) 高齢者の賃貸入居が断られやすい主な理由は、大家さんが抱える「孤独死・死亡後の手続き」「家賃滞納」「保証人がいない」といった不安です。見守りサービスや家賃債務保証会社を組み合わせ、大家さんの不安を先回りして解消すると、入居審査に通りやすくなります。2025年10月施行の改正住宅セーフティネット法により、安否確認・見守り・福祉へのつなぎがセットになった「居住サポート住宅」が創設されました。困ったときは、自治体の住宅相談窓口や居住支援法人、居住支援協議会に相談するのが近道です。ご家族は、早めの住み替え準備、緊急連絡先の引き受け、見守り体制づくりで大きな力になれます。 |
1. 高齢者が賃貸入居で困る理由とは?
高齢者の賃貸入居が難しくなる背景には、ご本人の事情だけでなく、物件を貸す大家さん・管理会社側の不安があります。国土交通省の資料では、業界団体の調査として、高齢者の入居に拒否感を持つ大家さんが約7割にのぼること、そして入居を断る理由の約9割が「居室内での死亡事故等への不安」であることが紹介されています。まずは、大家さんがどのような点を心配しているのかを知ることが、断られにくい部屋探しの第一歩です。
■ 孤独死・死亡後の手続きへの不安
単身の高齢者が室内で亡くなり発見が遅れると、原状回復や特殊清掃が必要になったり、いわゆる「事故物件」として次の入居者募集に影響が出たりする可能性があります。さらに、入居者が亡くなった後も賃借権(借りる権利)は相続されるため、相続人を探して契約を解除し、部屋に残された家財(残置物)を処分するまでに長い時間がかかることがあります。この「死亡時のリスク」が、大家さんにとって最も大きな懸念です。
■ 家賃滞納・保証人の問題
年金収入のみで暮らしている場合、収入が少ないと見なされ、家賃の支払い能力を心配されることがあります。また、従来の賃貸契約では連帯保証人を求められるのが一般的でしたが、配偶者に先立たれた方や子どもがいない方、親族が遠方にいる方などは、保証人を立てるのが難しいケースも少なくありません。近年は家賃債務保証会社の利用が主流ですが、高齢であることを理由に審査に通りにくいという課題もありました。
■ 入居中の生活や近隣トラブルへの心配
身体機能や判断力の低下によって、火の不始末、ゴミ出しのルールが守れない、家賃の支払いを忘れてしまうといった事態を懸念する大家さんもいます。何かあったときに連絡や相談ができる家族がいない場合、大家さんや管理会社だけでは対応しきれないという不安から、相談や内覧の段階で断られてしまうこともあります。
■ ご本人側の事情:住み替えのタイミング
高齢者の住み替えは、建て替えによる立ち退き、配偶者との死別、階段の上り下りが難しくなった、家賃の安い部屋に移りたいなど、急に必要になることが多いのも特徴です。時間的な余裕がないまま探し始めると、条件の合う物件が見つかりにくくなります。
2. 高齢者でも断られにくい賃貸の探し方
大家さんの不安の多くは、「何かあったときにどうなるのか」が見えないことから生まれます。逆に言えば、その不安を先回りして解消する準備をしておけば、高齢者でも入居審査に通る可能性は十分に高まります。ここでは、すぐに実践できる部屋探しのコツを紹介します。
■ 高齢者の入居に理解のある不動産会社を選ぶ
不動産会社によって、高齢者の入居支援への積極性は大きく異なります。「高齢者歓迎」「シニア向け物件あり」とうたっている会社や、地域の居住支援協議会に参加している会社、居住支援法人と連携している会社を選ぶと、高齢者を受け入れる大家さんの物件を紹介してもらいやすくなります。最初の問い合わせで、年齢や家族構成、利用予定の見守りサービスなどを正直に伝えておくと、話がスムーズに進みます。
■ 「見守り」「保証」「緊急連絡先」をセットで提示する
入居の申し込み時に、「見守りサービスに加入します」「家賃債務保証会社を利用します」「緊急連絡先は〇〇です」と、具体的な対策をまとめて伝えましょう。大家さんが心配する「入居中」「死亡時」のリスクに対して、どのような備えがあるのかを示すことが、断られにくくする最大のポイントです。
■ 支払い能力をわかりやすく示す
年金の受給額がわかる書類(年金振込通知書など)や、預貯金の残高証明を用意しておくと、家賃の支払い能力を客観的に示せます。家賃の目安は、年金などの手取り収入に対して無理のない範囲に設定し、更新料や共益費も含めた総額で検討することが大切です。
■ 物件の条件を少し広げてみる
エレベーター付き、1階、駅から近いなど、希望条件を絞り込みすぎると選択肢が限られます。生活に本当に必要な条件と妥協できる条件を整理し、エリアや築年数を少し広げて探すと、高齢者の入居を受け入れてくれる物件が見つかりやすくなります。また、UR賃貸住宅や公営住宅(都道府県営・市町村営住宅)など、保証人不要や高齢者向けの優遇制度がある公的な賃貸住宅も、あわせて検討するとよいでしょう。
■ セーフティネット住宅・居住サポート住宅を検索する
国が運営する「セーフティネット住宅情報提供システム」では、高齢者などの入居を拒まない賃貸住宅として登録された物件を検索できます。また、2025年10月からは「居住サポート住宅情報提供システム」で、見守りなどのサポートが付いた居住サポート住宅も検索できるようになりました。一般のポータルサイトとあわせて活用すると、探せる物件の幅が広がります。
3. 見守りサービス・家賃保証の活用法
高齢者の賃貸入居をスムーズにするうえで、見守りサービスと家賃債務保証は「二本柱」と言える存在です。どちらも大家さんの不安を直接的に和らげる仕組みであり、ご本人とご家族の安心にもつながります。
■ 見守りサービスの種類
見守りサービスには、さまざまなタイプがあります。ご本人の生活スタイルや費用、プライバシーへの配慮などを踏まえて選びましょう。
| 種類 | 主な内容 | 特徴 |
| センサー型 | 室内の人感センサーや電気・水道の使用状況から異常を検知 | 本人の操作が不要で、さりげなく見守れる |
| 電話・メール型 | 定期的な自動音声電話やメールで安否を確認 | 費用が比較的安く、導入しやすい |
| 訪問型 | スタッフが定期的に訪問し、生活状況を確認 | 顔を見て話せるので変化に気づきやすい |
| 緊急通報型 | ボタンを押すと警備会社などが駆けつける | 急な体調不良時にも対応できる |
| 自治体の見守り | 民生委員や地域包括支援センター、配食サービスなど | 地域とのつながりができ、費用負担が少ない |
大家さんや管理会社によっては、提携している見守りサービスを用意していることもあります。また、多くの自治体では高齢者向けの緊急通報装置の貸与や見守り事業を行っているので、お住まいの市区町村の高齢福祉担当窓口や地域包括支援センターに確認してみましょう。
■ 家賃債務保証会社の活用
家賃債務保証会社は、入居者が家賃を滞納した場合に家賃を立て替えて大家さんに支払う会社で、連帯保証人の代わりとして広く利用されています。保証人を頼める親族がいない高齢者にとっては、入居審査を通過するための重要な選択肢です。保証会社によっては、見守りサービスや死亡時の残置物処理、原状回復費用の補償などがセットになった高齢者向けプランを提供しているところもあります。
■ 認定家賃債務保証業者という新しい仕組み
改正住宅セーフティネット法では、高齢者などの住宅確保要配慮者が利用しやすい家賃債務保証業者を国土交通大臣が認定する制度が創設されました。認定の基準には、居住サポート住宅に入居する要配慮者の保証を原則として引き受けることや、緊急連絡先を親族などの個人に限定しないことなどが含まれています。身寄りのない高齢者でも保証を受けやすくなる仕組みとして期待されています。
■ 死亡時の備え:残置物処理の委任契約
大家さんが心配する「亡くなった後の家財の処分」については、国土交通省と法務省が公表している「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を活用する方法があります。入居時に、信頼できる受任者(居住支援法人や管理会社など)との間で、死亡時の契約解除や残置物の処理を委任する契約を結んでおくことで、相続人を探す手間がなくなり、大家さんの不安を大きく減らせます。改正法では、居住支援法人の業務に、入居者からの委託に基づく残置物処理が追加されました。
4. 住宅セーフティネット制度の概要
住宅セーフティネット制度は、「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律(住宅セーフティネット法)」に基づく仕組みです。高齢者、低額所得者、障害者、子育て世帯など、住まいの確保に配慮が必要な方(住宅確保要配慮者)が、安心して賃貸住宅に入居できることを目的としています。
■ これまでの制度:セーフティネット登録住宅
2017年に始まった現行の制度では、要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅を「セーフティネット住宅」として都道府県などに登録し、その情報を公開することで、要配慮者とのマッチングを進めてきました。あわせて、改修費や家賃低廉化、家賃債務保証料への補助などの経済的支援や、居住支援法人による入居支援・見守り・相談などが行われています。
■ 2025年10月施行の改正法のポイント
単身高齢者の増加や、大家さんの入居拒否感が根強いことを背景に、住宅セーフティネット法が2024年に改正され、2025年10月1日に施行されました。改正の主なポイントは次のとおりです。
- 居住サポート住宅の創設:居住支援法人等と大家さんが連携し、入居中のサポートを行う賃貸住宅を、市区町村などが認定する制度です。
- 認定家賃債務保証業者制度の創設:要配慮者が利用しやすい家賃債務保証業者を国が認定します。
- 終身建物賃貸借の手続き簡素化:入居者の死亡時に契約が終了し、相続されない「終身建物賃貸借」について、住宅ごとの認可から事業者単位の認可へと手続きが簡素化されました。
- 残置物処理の円滑化:居住支援法人が入居者からの委託を受けて、死亡時の残置物処理を行えるようになりました。
- 地域の居住支援体制の強化:住宅部局と福祉部局、居住支援法人、不動産関係団体などが連携する「居住支援協議会」の設置が、市区町村の努力義務とされました。
■ 居住サポート住宅とは
居住サポート住宅(正式名称:居住安定援助賃貸住宅)は、今回の改正の目玉となる仕組みです。居住支援法人などが大家さんと連携し、入居者に対して次の3つのサポートを提供します。
- ICT(センサーなど)や電話などによる日常の安否確認
- 訪問などによる定期的な見守り
- 生活や心身の状況が不安定になったときの、福祉サービスや相談窓口へのつなぎ
居住サポート住宅に入居する要配慮者については、認定家賃債務保証業者が家賃債務保証を原則として引き受けることになっています。また、生活保護を受給している方の場合は、住宅扶助費(家賃)を自治体から大家さんへ直接支払う「代理納付」が原則化されました。見守りと保証がセットになっているため、高齢者にとっては入居しやすく、大家さんにとっては安心して貸せる住宅と言えます。
認定された居住サポート住宅は、国の「居住サポート住宅情報提供システム」で検索・閲覧できます。サポートの内容や費用は住宅ごとに異なるため、見守りの頻度や対価、連携する福祉サービスなどを事前によく確認しましょう。
■ 相談先:居住支援法人と居住支援協議会
居住支援法人は、都道府県から指定を受けたNPO法人や社会福祉法人、株式会社などで、住宅確保要配慮者の入居支援(物件の紹介や不動産会社への同行など)や、入居後の見守り・生活相談を行っています。全国で800を超える法人が指定されており、地域の居住支援の担い手として活躍しています。どこに相談すればよいかわからない場合は、お住まいの自治体の住宅担当課や、地域の居住支援協議会に問い合わせてみましょう。
5. 家族ができる高齢者の賃貸入居サポート
高齢者の賃貸入居では、ご家族の協力が大きな後押しになります。離れて暮らしていても、できることはたくさんあります。ここでは、ご家族ができる具体的なサポートを紹介します。
■ 早めに住み替えの話し合いを始める
住み替えは、心身ともに元気なうちに準備を始めるのが理想です。「階段がつらくなってきた」「今の家は広すぎる」といったサインがあれば、早めに本人の希望を聞き、予算やエリア、必要な設備などを一緒に整理しましょう。時間に余裕があれば、条件に合う物件をじっくり比較できます。
■ 緊急連絡先・身元引受を引き受ける
大家さんにとって、「何かあったときに連絡できる人がいる」ことは大きな安心材料です。ご家族が緊急連絡先を引き受けるだけでも、入居審査の印象は大きく変わります。連帯保証人になるのが難しい場合でも、保証会社と緊急連絡先を組み合わせることで対応できるケースが多くあります。
■ 部屋探しや契約手続きに同行する
不動産会社への相談や内覧、契約の場にご家族が同席すると、大家さんや管理会社の安心感が高まります。また、契約書や重要事項説明の内容をご家族も一緒に確認することで、更新条件や退去時の費用などのトラブルを防げます。遠方の場合は、オンラインでの打ち合わせや電話での同席を相談してみるのもよいでしょう。
■ 見守り体制をつくる
定期的な電話やビデオ通話、見守りサービスの契約、近所の方や民生委員とのつながりづくりなど、複数の見守りを組み合わせると安心です。地域包括支援センターに相談しておけば、介護保険サービスや地域の見守り事業につないでもらうこともできます。
■ もしもの時の準備を一緒に進める
残置物処理の委任契約や、終身建物賃貸借の利用、エンディングノートの作成など、「もしもの時」に備えた準備を本人と話し合っておくことも大切です。デリケートな話題ではありますが、事前に意向を確認しておくことで、ご本人の希望に沿った対応ができ、大家さんにも安心してもらえます。
6. 入居前に確認したいチェックリスト
高齢者の賃貸入居では、契約前の確認が入居後の安心を左右します。物件や契約内容について、次のポイントをご本人とご家族で一緒にチェックしておきましょう。
| 高齢者の賃貸入居 チェックリスト 段差や手すりの有無、浴室・トイレの使いやすさなど、室内のバリアフリー性エレベーターの有無、階段の勾配、最寄りのバス停・駅・スーパー・病院までの距離家賃・共益費・更新料・保証料・見守りサービス料を含めた毎月の総額保証会社の保証内容(家賃滞納、原状回復、残置物処理などの補償範囲)見守りサービスの頻度、異常時の連絡先と対応の流れ契約期間と更新条件、普通借家契約か終身建物賃貸借か退去時の原状回復の範囲と費用負担のルールかかりつけ医や介護サービス事業所、地域包括支援センターへのアクセス |
特に、毎月の支払い総額は、見守りサービス料や保証料の月額分を含めて計算することが大切です。将来、介護が必要になった場合に住み続けられるか、あるいはサービス付き高齢者向け住宅や介護施設への住み替えを検討するかについても、あらかじめ話し合っておくと安心です。
7. よくある質問(FAQ)
■ Q. 何歳くらいから賃貸入居を断られやすくなりますか?
A. 明確な基準はありませんが、一般的には65歳以上、特に70代以降の単身の方は審査が厳しくなる傾向があります。ただし、見守りサービスや保証会社を利用し、緊急連絡先を用意することで、入居できる可能性は十分にあります。
■ Q. 保証人がいなくても賃貸住宅を借りられますか?
A. 家賃債務保証会社を利用すれば、保証人がいなくても借りられる物件は多くあります。改正法で創設された認定家賃債務保証業者は、緊急連絡先を親族に限定しないなど、身寄りのない方でも利用しやすい基準が設けられています。
■ Q. 居住サポート住宅はどうやって探せばよいですか?
A. 国の「居住サポート住宅情報提供システム」で検索できます。また、自治体の住宅担当課や居住支援法人に相談すると、地域の物件情報や入居までの支援を受けられる場合があります。
■ Q. 生活保護を受けていても入居できますか?
A. 入居できます。居住サポート住宅では、住宅扶助費(家賃)を大家さんへ直接支払う代理納付が原則化されており、大家さんにとっても家賃滞納の心配が少ない仕組みになっています。福祉事務所のケースワーカーにも早めに相談しましょう。
■ Q. 居住サポート住宅とサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の違いは?
A. サービス付き高齢者向け住宅は、高齢者向けに設計された住まいで、安否確認と生活相談のサービスが提供されます。一方、居住サポート住宅は一般の賃貸住宅をベースに、居住支援法人等が見守りや福祉へのつなぎを行う仕組みで、高齢者だけでなく障害者やひとり親世帯なども対象です。費用や住まいの形態、受けられるサポートが異なるため、ご本人の状況に合わせて比較検討しましょう。
まとめ:仕組みを知れば、高齢者の賃貸入居はもっとスムーズに
高齢者の賃貸入居が断られやすい理由は、主に大家さんが抱える「入居中」と「死亡時」のリスクへの不安です。見守りサービスや家賃債務保証、残置物処理の委任契約などを活用して、その不安を一つひとつ解消していけば、年齢を理由に住まい探しをあきらめる必要はありません。
2025年10月に施行された改正住宅セーフティネット法により、見守りと保証がセットになった居住サポート住宅や認定家賃債務保証業者など、高齢者の住まい探しを支える仕組みは着実に広がっています。ご本人だけで抱え込まず、ご家族や自治体の窓口、居住支援法人などの力も借りながら、安心して暮らせる住まいを見つけてください。
※本記事は2026年10月時点の情報をもとに作成しています。制度の詳細や補助内容は自治体によって異なる場合がありますので、最新情報はお住まいの自治体や国土交通省のホームページでご確認ください。
